骨格筋の役割と重要性

【記事内容ポイント】

  • 骨格筋のおもな役割は、①運動器、②エネルギー代謝に関係、③アミノ酸貯蔵。
  • さらに最近、骨格筋はマイオカインという物質を産生する内分泌機能もあることがわかってきた。
  • 血中アミノ酸濃度は骨格筋タンパク質の合成・分解を調節し、骨格筋の維持に関係する。

 

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前回サルコペニアについて説明しましたが、そもそも骨格筋はヒトのからだにおいてどのような役割を果たしているのでしょうか?

骨格筋はヒトでは最大の臓器であり、自分の意思で動かすことができる随意筋に分類されます。骨格筋を顕微鏡で観察すると縞々の模様がみられることから横紋筋とも呼ばれます。この縞模様はアクチンという細いフィラメントとミオシンという太いフィラメントの2種類のフィラメントが下図のように交互に規則正しく配列され重なり合っていることで形成されています。

筋肉が縮んだり(収縮)緩んだり(弛緩)することで体は動きます。つまり、筋肉は運動器という役割を担っています。

つぎに、筋肉が収縮・弛緩する際には共に大きなエネルギーを消費します。筋肉に刺激が伝達されるとATP分解酵素(ATPase)によってアデノシン三リン酸(ATP)が分解されアデノシン二リン酸(ADP)となります。その際に放出されるエネルギーが利用され、下図のようにミオシンフィラメントの間にアクチンフィラメントが滑り込むことで筋肉は収縮します(滑り説)。

また、筋肉は弛緩する場合にもエネルギーを使います。横行小管(T管)筋小胞体によって高まった細胞内のカルシウムは濃度勾配に逆らってカルシウムポンプを用いて再び筋小胞体内に取り込まれていきます。その際にもエネルギーを必要とするからです。カルシウムの濃度が低下していくとトロポニンという調節をつかさどるタンパクからカルシウムがはずれ、アクチンとミオシンの作用も弱まっていきます。そして初めの図に示しましたコネクチンがスプリングのような働きで収縮をもとにもどしていき、筋肉は弛緩します。

3つ目は、筋肉はアミノ酸をタンパク質として体内に貯蔵する貯蔵器官の役割を担っているということです。ヒトの体内のタンパク質は、そのおよそ4割が骨格筋として存在しています。飢餓時などエネルギーが不足した際には筋肉のタンパク質は分解されてアミノ酸となり、そのアミノ酸がエネルギーの産生に利用されます。また手術やケガ、感染などの際にも筋タンパク質はアミノ酸に分解され、そのアミノ酸はCRPフィブリノゲンなどの急性期タンパク質の合成に利用されます。

ほかにも最近はマイオカインと言われる物質を産生する内分泌器官としての役割があることもわかってきました。マイオカインについてはまたあらためて説明できればと思います。

ヒトの体内のタンパク質はそのすべてが、食事によって摂取したタンパク質をいったんアミノ酸にまで分解し体内で再びタンパク質に合成したものです。骨格筋の細胞内では、タンパク質の合成と分解が常に起こっています。したがって、骨格筋を一定量に保つためには、筋タンパク質の合成と分解が平衡状態、つまり筋タンパク質の合成量と分解量がつりあった状態でなければなりません。

細かく観察すると、筋タンパク質の合成・分解のバランス状態は常に変動しています。日常生活の中では食事運動がそのバランスの変動を引き起こすことが知られています。食事における栄養素の中では、タンパク質が重要です。タンパク質の摂取によって体内に吸収されたアミノ酸が、血中アミノ酸濃度を増加させます。血中アミノ酸濃度の変化が、骨格筋タンパク質の合成・分解のバランス状態を調節することがわかっています。アミノ酸の中でもロイシンが、筋タンパク質の合成のトリガーとして筋細胞内の哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1(mammalian target of rapamycin: mTORC1)を活性化し筋タンパク質の合成を促進すると言われ現在注目を集めています。

このように様々な役割を持つ骨格筋が減少するということは、運動器としての役割が低下する、すなわち身体能力が低下するというだけではありません。肥満・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病の発症や重症患者の予後悪化に関係すると考えられています。骨格筋量を十分に維持することは、健康維持や、疾患・外傷などのストレスから回復するために非常に大切なことといえるでしょう。