高齢者の大敵「フレイル」とは?!

[su_heading size=”18″]「フレイル」って何?[/su_heading]

「フレイル」という言葉をご存知でしょうか?

フレイルとは簡潔に言うと、歳をとって体が弱って病気になりやすくなった状態のことです。言い換えれば、高齢期になり生理的予備能が減少することでストレスへの抵抗性が低下し、機能障害や要介護状態・死亡などの不幸な転機に陥りやすくなった状態と言えます。

お年寄りからは、このような言葉をしばしば聞くことがあります。やせて骨と皮だけになってきた。ちょっと動くだけでしんどい。疲れやすくなった。しかし病院に行って何か病気が隠れていないか調べてみても特に異常は認めない。そんな時には、フレイルの可能性を考えなければなりません。

フレイルは、数年前あたりから老年医学という分野でとても注目を集めるようになりました。はじめは身体的に弱ってしまうことを示していましたが、現在は認知症やうつ病などの精神・心理的側面の問題や、孤独といった社会的側面の問題も含めて表現されるようになっています。

フレイルは、“Frailty”という英語を日本語で表現したものです。Frailtyは日本語に訳すと『虚弱』、『もろさ』、『弱さ』などとなりますが、それら以上の意味を含んでいることに加えて、マイナスイメージの強い言葉であるため、日本老年医学会が日本語訳を募集し、フレイルという用語を使うことが決定されました。

フレイルが説明される際に、よく下図のようなものが示されることがあります。

 

(葛谷雅文 老年医学におけるSarcopenia&Frailtyの重要性 日本老年医学会雑誌 46(4):279-285, 2009 、筆者改変)

この図で示されているように、フレイルは、おおむね生理的な加齢変化を含めた健康な状態と、機能障害・要介護状態の間にある状態として捉えられることが多いようです。しかしフレイルの観念については現在多くの学者が研究を重ねている段階で、発展途上の概念と言ってしまってもいいでしょう。フレイルについての考え方や捉え方も多様であり、現在も色々な提唱がなされ研究が進められています。

[su_heading size=”18″]「フレイル」の基準[/su_heading]

ある高齢者が「フレイル」の状態にあると診断するにあたっては、何か具体的な基準がなければなりません。しかし、じつはまだ定まった「フレイル」の定義・診断基準はありません

現時点でよく用いられている評価方法として、Friedの基準が有名です。Linda P. Fried先生はアメリカの老年学者・疫学者であり、Frailtyの大家(たいか)です。Columbia University’s Mailman School of Public Healthの学部長を女性としてはじめて務めていらっしゃいます。

さて、Friedの診断基準をちょっと調べてみると、多くはこんな感じで紹介されています。

  1. 体重減少
  2. 力(握力)の低下
  3. 疲労感
  4. 歩くのが遅い
  5. 活動量の低下

1~5のうちの3つ以上満たす場合、フレイルとする。

いかがでしょうか…。弱った高齢者というイメージはつかめますが、フレイルかどうか判断するにはそれぞれの条件の内容が漠然としています。具体的な数値などが示されていないと、基準として使えません。

そこで、もともとのFried先生の論文ではどう書かれているのか、調べてみました。

Linda P. Fried et al. Frailty in Older Adults: Evidence for a Phenotype, J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001 Mar;56(3):M146-56

2001年に、まだFried先生がJohn Hopkins Medical Institution所属のときに執筆されたものですね。その研究では5317人の65歳以上の男女を対象として、frailtyの基準として以下の5つの条件があげられています。

  1. Shrinking(萎縮):体重減少。意図しないもので、1年間で10ポンド(約4.5kg)以上、または昨年の体重の5%以上。
  2. Weakness(虚弱):握力が最も弱い20パーセンタイル(性別とBMIで調整)。
  3. Poor endurance and energy(耐性とエネルギーの低下):疲労のセルフレポートによって示される。疲労のセルフレポートは、CES-D(これはうつ病の自己評価スケールです。)からの2つの質問によるもので、心血管病の予測をするVdotO2 maxの指標となる段階的運動試験の到達ステージと関連がある。
  4. Slowness(遅さ):15フィート(約4.6メートル)の歩行時間が、最も遅い20パーセンタイル(性別と身長で調整)。
  5. Low physical activity level(低身体活動レベル):個人それぞれの報告にもとづいた、1週間で消費したキロカロリーの傾斜配点で、それぞれの性別における最も低い5分位。男性<383kcal/週、女性<270kcal/週。

1~5のうちの3つ以上満たす場合、Frailtyとする。

このようにして見てみると、握力、歩行速度、活動レベル、それぞれにおいて集団の中で下から20%以内に含まれていることを、Frailtyの基準として採用していますね。(残念ながら、握力や歩行速度に関する実際の具体的数値は示されていませんでした。)したがって、「フレイル」をFriedの基準で決定するには、集団の中での相対的なものとして考える必要があるのかもしれません。

また、もうひとつ気を付けなければいけないことがあります。

この研究の対象の人種構成はどうなっているかというと、Caucasian(白人)が84.5%、African American(アフリカ系アメリカ人)が14.8%、その他が0.7%となっていて、アジア系はほとんど対象に入っていません。そのため、日本における「フレイル」についてFriedの基準を用いて考える場合には、この研究データをそのまま鵜呑みにはできないと言えるでしょう。

では「フレイル」だと何が良くないのでしょうか?

次回以降、また説明していきたいと思います。