【記事内容ポイント】
- サルコペニアは筋肉量低下、筋力低下、身体能力低下の3つの要素で診断される。
[su_heading size=”18″]サルコペニアの診断方法[/su_heading]
前回は、サルコペニア(Sarcopenia)という名称がどのようにしてつけられたかという経緯についてお伝えさせていただきました。
今回は、サルコペニアの診断方法について説明したいと思います。
サルコペニアという用語が提唱されてから、サルコペニアの概念は世に広がっていきましたが、しばらくその具体的な定義や診断方法について定まったものはありませんでした。そのため骨格筋量減少の意味ではあるもののぼんやりとした様々な定義のもとで、サルコペニアについての研究はすすんでいきました。そうした中でサルコペニアは、運動障害、転倒・骨折のリスク増加、日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL)の低下、自立性喪失、および死亡リスク増加など不幸な転機との関連があることが報告されてきています。骨格筋量がこれらの予測因子であることを多くの研究が示している一方、骨格筋量は予測因子としては弱いものにすぎないという報告もあります。
このような流れから、ついに2010年、「高齢者におけるサルコペニアについての欧州作業部会(European Working Group on Sarcopenia in Older People: EWGSOP)」がサルコペニアについてのコンセンサスレポートを発表しました。これによって、サルコペニアにおいては骨格筋量の減少だけでなく筋肉機能(身体能力や筋力)の低下についても考慮されるようになり、歩行速度と握力を追加した新しい定義が導入されるようになったのです。
[su_heading size=”18″]EWGSOPサルコペニア診断アルゴリズム[/su_heading]
EWGSOPにより、サルコペニアは、『身体的な障害や生活の質の低下、および死などの有害な転帰のリスクを伴うものであり、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群である』と定義されました❶❷。先述しましたが下表に示すようにサルコペニアと診断するためには、筋肉量低下の存在だけでなくそれに加えて筋力や身体能力の低下の存在が必要となります。
サルコペニアは多くの原因と結果を伴う病態で、認知症や骨粗鬆症のように主に高齢者にみられるものですが若年成人でも起こることがあります。サルコペニアの病因に関しては下表のように分類されています。最大の一次的要因は加齢であり、加齢によるサルコペニアは一次性サルコペニアと呼ばれます。次いで、寝たきり・不活発なライフスタイル・失調や無重力状態などの身体活動性低下、また重症臓器不全(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳)・炎症性疾患・悪性腫瘍・内分泌疾患といった病気、および吸収不良・消化管疾患・食欲不振を起こす薬剤・摂取エネルギーやたんぱく質の摂取量不足に起因する栄養不足などが、二次的要因とされており、これらによるものは二次性サルコペニアに分類されます。
また下表に示すように、サルコペニアの分類には病期(ステージ)による分類もあります。病期分類は状態の重症度を表すものであり、臨床的な管理に役立ちます。骨格筋量減少を認めるのみで、筋力低下や身体能力低下がない場合を「プレ・サルコペニア」、骨格筋量減少が認められ、さらに筋力低下または身体能力低下のどちらか1つがある場合「サルコペニア」、骨格筋量減少、筋力低下、身体能力低下が3つともそろっている場合は「重症サルコペニア」に分類されます。
では、サルコペニアの人を見つけるためには具体的にどうすればよいのでしょうか。
EWGSOPは、サルコペニアを発見するための第一歩として、あるいは実際のスクリーニングのためにまずは最も簡易で信頼できる方法として下図のようなアルゴリズムを推奨しています。
診断アルゴリズムの対象となるのは65歳以上の高齢者です。歩行速度を身体能力の指標に用います。スクリーニングのための歩行速度のカットオフ値は0.8m/秒に決まりました。歩行速度が0.8m/秒以下であれば、身体能力が低下していることを意味します。歩行速度が0.8m/秒以下の場合、次に骨格筋量の評価を行います。骨格筋量が少なければ、骨格筋量の低下と身体能力の低下という2つの条件が揃いますので、サルコペニアだということになります。歩行速度が0.8m/秒以上の場合は、身体能力は保たれているということになりますので、次に筋力が低下していないかどうかの評価を行います。筋力の指標としては、握力を用います。握力が低下していれば骨格筋量の評価を行い、骨格筋量が低下していればサルコペニアと診断されます。
いかがでしたでしょうか。サルコペニアの全体像を何となく掴むことができたでしょうか。
歩行速度のカットオフ値である0.8m/秒は、1分では50mほど、1時間では3㎞弱ほど歩く速さになります。なるべくふだんから速く歩くよう心掛けていきたいものですね。
では、握力は何㎏以上が正常なのでしょうか? 骨格筋量はどのようにして測定すればよいでしょうか?
それらの疑問については、また今後説明していきたいと思います。
References:
- Delmonico MJ et al, Alternative defnitions of sarcopenia, lower extremity performance, nad functional impairment with aging in older men and women. J Am Geriatr Soc 2007;55:769-774.
- Goodpaster BH et al, The loss of skeletal muscle strength, mass, and quality in older adults: The health, aging and body composition study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2006;61:1059-1064.
- 日本老年医学会 サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A
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